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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)74号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決の認定判断は正当であつて、次に説示するとおり原告の主張は、すべて理由がないものというべきである。

前示本願発明の要旨に成立に争いのない甲第三号証(昭和六〇年一二月一日付手続補正書)を総合すれば、本願発明は、ロータリー機関に関する発明であつて、自転ピストン機関としてのロータリー機関の特性を得ることができ、しかも、外燃機関として小型で効率よく、燃料はどんなもの(例えば微粉炭)でも使え、排気ガスもクリーンで都市の排気ガス公害の解決に役立つエンジンを得ることを目的ないし課題として、本願発明の要旨のとおりの構成(明細書の特許請求の範囲の項の記載に同じ。)を採用したもので、右構成を採用することにより所期の作用効果を奏し得たものと認められる。他方、第一引用例及び第二引用例に本件審決認定のとおりの事項が記載されていること、並びに本願発明と第一引用例記載のものとの間に本件審決認定のとおりの一致点及び相違点(1)ないし(4)があることは原告の認めるところである。

原告は、本件審決は、本願発明と第一引用例記載のものとの間に右相違点のほかにシール構成の違いが存する点を看過した旨主張するが、前示本願発明の特許請求の範囲の記載から明らかなとおり、本願発明は、仕切翼等のシール構成を発明の構成要素とするものではないから、本願発明のシール構成と第一引用例記載のもののシール構成との異同は、本願発明の構成とは無関係な主張というべく、原告の右主張は失当である。なお、原告は、この点に関して、原告のシール構成の違いについての主張は、本願発明の仕切翼(5)と第一引用例記載のもののセグメント(8)との構造の違いを明らかにするための主張である旨主張するが、原告の前記主張の趣旨が右のとおりであるとしても、本件審決は、前示のとおり、本願発明の仕切翼(5)と第一引用例記載のもののセグメント(8)との構造の違いは相違点(2)として認定し、これについての認定判断をしているのであるから、本件審決が両者の構造上の違いを看過した事実はなく、したがつて、原告の右主張は採用することはできない。

次に、原告は、本件審決が、本願発明と第一引用例記載のものとの相違点(1)ないし(3)についての認定判断を誤つた旨主張するから検討するに、前示の本願発明の要旨と第二引用例の記載事項とを対比すると、第二引用例記載のものの可変位ベーン<3>、可変位ベーン室<30>、シリンダー状の燃焼室<26>は、本願発明の仕切翼(5)、仕切翼室(3)、シリンダー(2)にそれぞれ対応し(この点は、原告の明らかに争わないところである。)、第二引用例記載のものの軸<4>は、本願発明の中心軸(6)に対応するものと認められ、右事実に前示第二引用例の記載事項を総合すると、第二引用例には、両側に中心軸を備え、ケーシングローター<1>の回転につれて左右に回転する可変位ベーン<3>(本願発明の仕切翼に相当)の一端が可変位ベーン室<30>(本願発明の仕切翼室に相当)の面に、他端が燃焼室<26>(本願発明のシリンダーに相当)内の内部ハウジング<2>の壁面にそれぞれ接するようにして、高圧側と低圧側とに仕切るようにした構造のロータリーエンジンが開示されているものと認められ、一方、第一引用例記載のもの(ロータリー・ピストン型の蒸気機関)も第二引用例記載のもの(ロータリーエンジン)も共にロータリーエンジンであつて、その点で技術分野を同じくするものであり、セグメント(8)も可変位ベーン<3>も、共にエンジンのシリンダー室を高圧側と低圧側に仕切るという機能を有するものである点では同じものであるから、第一引用例に記載されたもののセグメント(8)に代えて、第二引用例記載のものの可変位ベーン<3>を採用し、本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到することができる程度のことというべきである。そして、成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によれば、第二引用例の発明の詳細な説明の項には、可変位ベーン<3>の構造及びその機能並びにその奏する作用効果に関して、「燃焼室<26>はさらに可変位ベーン<3>によつて仕切られる。この可変位ベーン<3>は可変位ベーン軸<4>によつて支えられる。」(同号証第一頁左下欄第二三行ないし第二五行)、「可変位ベーン下端は内部ハウジング<2>の楕円外周にそつて動くから可変位ベーン<3>はこの曲面の変位につれて変位する。」(同号証第一頁右下欄第一行目ないし第三行)、「可変位ベーンの上端もその変位する円周曲面に接触して変位する。よつて燃焼室<26>は内部ハウジング<2>外周の楕円曲面と可変位ベーン<3>によつて仕切られる。」(同号証第一頁右下欄第一五行目ないし第一八行)及び「爆発時可変位ベーン<3>はガス圧を受け可変位ベーン軸<4>を介してケーシングローターを回転させる。ここで可変位ベーン<3>の軸<4>を中心とした左右の面に受けるガス圧は距離、面積、質量とも同じであるから、左右のモーメントは同じになり、可変位ベーン<3>がどちらに動くことなくその力を軸<4>に直角にケーシングローター<1>を回転させることができる。」(同号証第一頁右下欄第二一行目ないし第二頁左上欄第三行)旨の記載があることが認められ、右記載によれば、第二引用例記載のものの可変位ベーン<3>(本願発明の仕切翼に相当)は、軸を中心として対称形であるため、両翼にほぼ等しい圧力が加わつてバランスするものであることが認められ、右認定の事実に徴すると、第二引用例記載のものの構成から、本願発明のように仕切翼の形状を軸を中心とした対称形である扇形とすることに困難性があるものとは認められず、また、仕切翼の断面形状を扇形とすることによつて奏する本願発明の効果は、第二引用例記載のものの可変位ベーン<3>の奏する右認定の効果と比較して格別のものと認めることができない。なお、このように仕切翼として扇形の形状のものを採用する場合には、右仕切翼を収納する必要上、本願発明のようにその形状を半円形とする収納室(仕切翼室)を設けることは、当業者が容易に想到することのできる程度のことというべきであり、また、第一引用例記載のものにおいては、取入口(9)から吸入された蒸気がロータリーピストン(3)に回転力を与えた後に、取出口(10)から排出されるので、収納室の下部はシリンダーとつながつているようにしなければならないことは、その機能からして当然のことというべきである。そうだとすれば、相違点(1)及び(2)における本願発明の構成に特段の創意工夫を要するものと認めることはできず、したがつて、本件審決の相違点(1)及び(2)についての認定判断に誤りはない。原告は、本件審決の相違点(1)及び(2)についての認定判断について、本願発明の仕切翼(5)は、仕切翼軸(6)を中心として両翼に同じ圧力が加わりバランスしているので、小さい力で、具体的にはカム機構で仕切翼(5)を完全にコントロールすることができ、また、仕切翼室(3)はシリンダー面と同じに精密加工されて、アペツクスシールやサイドシールが密接し、ガスシールを行うことができるとともに、シールの耐久性が十分得られるという作用効果を奏するのに対し、第一引用例記載のもののセグメント(8)は、支軸(11)に遊嵌しているため、制御機構は始めから考慮されていないし、仮に百歩譲つて、支軸にセグメントを固定し、外部の出力軸より出力を得てセグメント制御機構を設けても、セグメントの円弧状表面に加わるガス圧力により支軸に大きなトルク(回転力)が加わるため、カム機構を強大なものとしなければならず、エンジンが複雑大型となり、その耐久性を考えると、そうしたセグメント制御機構を設けることは不可能であるという点を看過した旨、また、第二引用例記載のものは、構造が大型、複雑で、機構そのものも成り立つか疑問であり、しかも実現性がないものであるところ、可変位ベーン<3>は、第二引用例記載のものの構成の一部分であるから、可変位ベーン<3>の作用効果を理解することは更に困難であり、そうであるとすれば、第一引用例記載のもののセグメント(8)を第二引用例記載のものの可変位ベーン<3>に代えようとする動機もなく、当業者が容易に想到できることにはならない旨、更には、本願発明の仕切翼室(3)は、単なるローター通過のみのための収納室ではなく、シリンダーガス圧力を仕切翼室(3)に導いて仕切翼(5)面にガス圧力がかかるようにしてバランスさせ、仕切翼制御をカム制御機構等により行いやすくさせ、かつ、アペツクスシールにシリンダーガス圧力による過大な力がかかるのを防ぎ、ガスシールを確実なものとするものであるが、第一引用例記載のもののセグメント(8)に本願発明と同じ収納室をシリンダー外周に設けても、シール(15)があることにより、収納室とシリンダー空間(24)とは隔絶し、シリンダーガス圧力が収納室に導かれることはなく、また、百歩譲つて、このシール(15)がなかつたとしたところで、セグメント(8)の構造上、収納室側先端シールを設けることもできないし、セグメント(8)の円弧状の部分(12)にガス圧力が加わらず、また、たとい、ガス圧力を加えられるとしても、セグメント(8)の構成は軸に対して片翼であるからバランスしない旨主張する。しかし、本件審決は、本願発明の仕切翼と第一引用例記載のもののセグメント(8)との構造の違いを相違点(2)として認定したうえ、右相違点に関し、第一引用例記載のもののセグメント(8)に代えて第二引用例記載のものの可変位ベーン<3>の構成を採用し、本願発明のように容易に構成し得るものと認定判断したものであり、そのように構成することの容易性及び右のように構成する場合、下部がシリンダーにつながる半円形の収納室を設けることが容易に想到されること、並びに第二引用例記載のものの可変位ベーン<3>が本願発明の仕切翼(5)に相当し、その果たす作用効果において格別の差異がないことは、前認定説示のとおりであるから、原告の叙上主張は採用することができない。原告は、本件審決の相違点(3)についての認定判断の誤りを主張するが、出力軸より出力を得て各種の駆動軸(例えばカム軸)の回転を制御することは、本願発明の特許出願前に内燃機関(例えば、レシブロエンジン)において慣用されていた手段であり、しかも、偏心ローターの周面と仕切翼の一端とが常に接するように偏心ローターの回転と仕切翼の左右回転とを同期させなければならないことが機能上要求される以上、右慣用手段を仕切翼の回転制御に採用して本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到することができる程度のことというべきである。したがつて、相違点(3)についての本件審決の判断に誤りはない。原告は、この点について、本願発明の仕切翼(5)においては、仕切翼の両翼に等しいシリンダー圧力が常に加わつてバランスし、仕切翼軸とカム制御機構とを連結して仕切翼を左右回転制御することができるという作用及び効果をもつものであり、このような作用効果をもつロータリー機関の仕切翼制御は従来にない旨主張するが、右主張は、前認定の事実に照らし採用することができない。

更に、原告は、第一引用例及び第二引用例記載のものは、いずれも実用性のないものであるから、このようなものから本願発明を容易に想到することができるとする本件審決の認定判断は誤りである旨主張するが、第一引用例及び第二引用例に本件審決認定のとおりの事項が記載されていることは前示のとおり原告も認めるところであつて、右各引用例に開示された技術的事項から本願発明を想到することが容易であるか否かということと、右各引用例記載のものが実用性を有するか否かということとは直接関係のない別個の事項であつて、仮に、原告主張のとおり、右各引用例記載のものが実用性を有しないとしても、本件審決の引用した右各引用例に開示された技術的事項の評価には何らの影響を及ぼすものではないから、原告の右主張は採用するに由ない。

そうすると、本願発明は、第一引用例及び第二引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとみるのを相当とし、本件審決の認定判断は正当というべきである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

次の(A)~(F)の構成を有することを特徴とする外燃式カムローターロータリーエンジン。

(A) ハウジング(1)にはシリンダー(2)と断面がほぼ半円形で下部がシリンダーとつながつている仕切翼室(3)があること。

(B) シリンダー(2)内を偏心ローター(4)がその一端をシリンダー(2)に接して回転すること。

(C) 仕切翼室(3)には断面がほぼ扇形で両側に中心軸(6)を備えた仕切翼(5)が、その中心軸(6)がサイドハウジング(7)にある軸受(8)に支えられて設けられること。

(D) 前記仕切翼(5)は、前記ローター(4)の回転につれ左右回転して、その両翼端の一方は仕切翼室(3)の面に他方はローター面にそれぞれ接してシリンダー(2)の高圧側と低圧側とに常に仕切つていること。

(E) 仕切翼(5)の左右回転制御は、ハウジング外のローター(4)の主軸(9)より出力を得てカム機構により仕切翼軸を回転制御すること。

(F) 小型で、構造がシンプルで、コストが安く効率が良く、燃料はどんなものでもよく、排気ガスがクリーンであること。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

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別紙図面(二)

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(以下省略)

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